成分分析
一般なワイナリーの醸造担当者は、日々、醸造中の果醪(ワインマスト)中の成分として、糖度(糖含量)、pH及び総酸、資化性窒素などを分析し、適宜成分の補充を行ったりして、発酵がスムーズに進むようにしています。 当社が重視しているのは、ワインの品質や味にかかわる成分、特にアミノ酸、有機酸およびポリフェノールです。これらの成分は、「健康に良いワインとはどのようなワインか」を表す指標となり、原料(品種)条件や醸造条件などによっても変わってきます。アミノ酸の分析では、大きくポストカラム法とプレカラム法がありますが、いずれも高速液体クロマトグラフィー(HPLC)をベースとしています。有機酸はガスクロマトグラフィー法かHPLC方を用います。 総ポリフェノールの分析ではフォーリン-チオカルト方が一般に用いられます。また、ポリフェノールの分子種はHPLCと質量分析装置との連携によって分析されます。さらにポリフェノールのもたらす抗酸化能については、酸素ラジカル吸収能力測定法やより簡便なDPPHラジカル捕捉法により分析します。
・さくらんぼワインの成分について
1.さくらんぼワインのポリフェノール
チェリーワインの主なポリフェノールはパラクマロイルキナ酸とクロロゲン酸で、おおよそ、ワイン1ml当たり0.8~1㎎のポリフェノールが含まれていました。 この量は白ワインやロゼより多く、赤ワインに含まれているポリフェノールのおおよそ半分に相当します。 3品種の内、赤紫色の濃い「紅さやかワイン」は1ml当たり約1.4㎎のポリフェノールを含み、ポリフェノールの成分として、パラクマロイルキナ酸やクロロゲン酸の他に、シアニジン-3-ルチノイドというアントシアニンを含んでいました。 この成分が「紅さやか」ワインの赤紫色をもたらしています。
2. さくらんぼワインの遊離アミノ酸
さくらんぼワインの遊離アミノ酸は、他のワインと異なりアスパラギンとグルタミン酸が多く、各々100ppm以上含まれていました。ブドウのアミノ酸と比較して、アスパラギンが多いことが特徴となっています。また、血圧降下作用のあるGABAやニコチアナミンも多く、その機能性が注目されます。特に果肉の赤い紅さやかは遊離アミノ酸含量が多く佐藤錦やナポレオンの2倍の量が含まれていました。
3.さくらんぼワインの有機酸
さくらんぼワインの有機酸は、醸造条件によって大きく変わってきます。サクランボには元来リンゴ酸が多いですが、果実の葉面や軸の部分についている天然の乳酸菌が働いて、リンゴ酸が乳酸に変換されます。 その程度はサクランボ園の条件や品種によって異なってきます。 2年間の経験から、リンゴ酸から乳酸へのマロラクティック発酵(MLF)による変換は醸造の後期には間違いなく生じるといえます。 発酵が完全に終わっていない条件では、リンゴ酸が少し残り、酸味があってすっきりした味わい深いワインにすることも可能です。 また「紅さやか」のワインにはコハク酸が多いという特徴があり、紅さやかワインの美味しさのもとになっていると考えられます。
4.さくらんぼワインの抗酸化能
体内で生成する有害な活性酸を消去する力を測定した結果、ポリフェノールの量に正比例し、さくらんぼワインでは赤ワインの70~75%であることが確かめられました。 これはおそらくサクランボ破砕したもの全て赤ワインを仕込むのと同様に醸し発酵を行ったために高くなったものと考えられます。 「紅さやか」のワインにはアントシアニンを含むため、抗酸化能は佐藤錦やナポレオンより高いことが考えられ、その機能性が期待できます。
・ヤマブドウワインなど赤ワインのポリフェノールについて
1. 総ポリフェノール含量 総ポリフェノール含量はヤマブドウワインやヤマ・ソービニオンワインで、3 mg/mL前後と多かった。カベルネ・ソーヴィニヨンワインの含量は共に2 mg/mL以上で、マスカット・べーリーAワインの含量は約1.8 mg/mLであった。
2.赤ワインのアントシアニンの種類と含量 ヤマブドウワインやヤマ・ソービニオンワインのアントシアニンの分子種はマルビンで、含量は0.56~0.99 mg/mLと多いのに対し、カベルネ・ソービニヨン及びマスカット・べーリーAワインのアントシアニンはマルビジンモノグルコシドで、含量はヤマブドウワインの約半量(0.27 mg/mL)であった。以上のことから、ヤマブドウワイン及びヤマ・ソービニオンワインのアントシアニン含量は他の赤ワインより多く、鮮やかな赤紫色はアントシアニンとしてのマルビンが関係している可能性が考えられる。
3. 2019年産ワインのアントシアニン及びプロアントシアニジン(縮合タンニン)含量
東根フルーツワインで2019年に製造した2種の赤ワイン及びロゼワインのポリフェノールとして重要な構成要素である、アントシアニン及びプロアントシアニン含量を分析した結果は図に示す通りです。ヤマブドウワインとマスカットベーリーAワインを比較すると、ヤマブドウワインのアントシアニン含量はマスカットベーリーAワインの2.7倍含まれていたが、逆にプロアントシアニジン含量はマスカットベーリーAワインの方が多く、ヤマブドウワインの含量は半分以下だった。以上のことは、ヤマブドウワインはマスカットベーリーAワインと比較してアントシアニンが多いので赤紫色が濃く、縮合担任による渋みは少ないことを示している。
4. 2021年産赤ワインにおける総ポリフェノール含量及びケイ皮酸系ポリフェノール含量
赤ワインの総ポリフェノール含量をフォーリンチオカルト方により分析し、比較すると、ヤマブドウワインが1ml当たり2.6mg含まれ最も多かった。マスカットベーリーAワインは約2.0mgで、カベルネソーヴィニオンワイン及びヤマソービニオンワインはその中間の値だった。
また、総ポリフェノールのうち、アントシアニンやプロアントシアニジン以外のポリフェノールを分析するために、ヤマブドウワイン及びカベルネソーヴィニヨンワインをアルカリ加水分解しHPLCで分析すると、大きなピークとして、カフェ酸とp-クマル酸が検出されたが、実際はカフェ酸とp-クマル酸に酒石酸の結合したものや糖が結合し配糖体になっているものだ
2023年さくらんぼワインの成分を分析しました
2023年さくらんぼワイン3種の総ポリフェノール含量
2023年産のさくらんぼワインの総ポリフェノール含量に関してフォーリンチオカルト法により分析した結果、佐藤錦ワインは約0.8mg/ml含有し、紅さやかワインは佐藤錦ワインより約1.3倍多く、1.25mg/ml含有していた。これらのさくらんぼワインのポリフェノール含量は、ブドウの赤ワインの含量の約半分の量であった。また、ポリフェノールの種類についてHPLCを用いて分析した結果、佐藤錦やナポレオンのポリフェノールはクロロゲン酸とパラクマロイルキナ酸が主で、紅さやかにはこれら2種のポリフェノールの他にアントシアニンとして0.4mg/ml程度のシアニジン・ルチノシドが含まれていた。
2023年産サクランボワインの抗酸化能
さくらんぼワインの人体に有害な活性酸素を除去する力(抗酸化能)をDPPHという活性酸素を発する物質をどのくらい除去できるか試験した結果、ポリフェノール含量に比例して佐藤錦やナポレオンは赤ワインの半分の力があり、紅さやかに関しては赤ワインと同程度の能力があることが明らかになった。数値は1ml当たりビタミンEと同等に抗酸化能のあるTroloxのnMとして表した。
2023年産サクランボワインの有機酸について
2023年産さくらんぼワインの有機酸を分析した結果、佐藤錦ワイン、ナポレオンワイン及び紅さやかワイン共に、一番多く含まれているのは乳酸でリンゴ酸やコハク酸は乳酸の半分以下であった。以前の分析で、3品種とも発酵の初期はリンゴ酸が圧倒的に多く、乳酸は検出できないくらいだったので、3品種ともに発酵中に自発的マロラクテック発酵(MLF)が起こってリンゴ酸から乳酸への反応が進んだものと考えられます。
2023年産赤ワインの総ポリフェノール含量を分析しました
2023年産赤ワイン6種の総ポリフェノール含量をフォーリンチオカルト法によって分析した結果、例年にはヤマブドウワインが2.5mg/mlと多かったのですが、2023年のヤマブドウワインの含量は約2.3mg/mlとやや少なく、メルローワインの含量が約2.7mg/mlと最も多く、フルボディワインの特徴がよく出ている結果となった。ライトボディタイプのマスカットベーリーAワインは約2.0mg/mlで例年の含量であった。ピノノワールワインはロゼに近い色調であるが、2.1mg/mlと多く、またデラウエアオレンジワインは色調はロゼであるが、総ポリフェノール含量は1.84mg/mlと多く赤ワインと同じ製造方法をとるオレンジワインの特徴を良く表していると考えらえれる。